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東京高等裁判所 平成9年(ネ)2506号 判決

控訴人 三島悟

被控訴人 三島和恵

主文

一  原判決中主文第三項を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、控訴人から金1600万円の支払を受けるのと引き換えに、原判決添付別紙物件目録1及び2記載の不動産の被控訴人の共有持分について財産分与を原因として持分全部移転登記手続をせよ。

2  控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人から右不動産の持分全部移転登記手続を受けるのと引き換えに、金1600万円を支払え。

二  その余の本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、第二審を通じて、これを3分し、その2を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。

3  訴訟費用は第一・第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決の事実及び理由の「第二事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

第三証拠関係

原審及び当審訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  控訴人と被控訴人の婚姻、本件別居の経緯、本訴提起に至った経緯等の事実関係は、原判決書7頁1行目から同18頁6行目までに記載されているとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり改める。

1  原判決書7項1行目の「五の1」から同2行目の「乙1、2及び3の各1、2、4」までを「6、乙1、7」に改める。

2  同8頁5行目の「ぶち殺してやる。」を「ぶっ殺してやる。」に改める。

3  同10頁4行目から同11頁8行目までを削る。

4  同18頁1行目の「供述し、」の次に、「また、平成9年9月30日付けの控訴人の陳述書には、「わたしはどのような外的危機からも家族が逃げられるようにと密な家族関係の構築を目指しました。その為、家族家庭に過度の緊張を与えました。わたしは今深く反省しすまなく思っています。今後は子供を育てるように家族の絆を育んでゆきたいと思っています。……私は家族が戻ってくることを強く望んでいます。」との陳述記載があり、控訴人は、」を加える。

二  被控訴人の控訴人に対する離婚請求、親権者指定の申立て及び慰謝料請求についての判断は、原判決が判断説示するとおりであるから、原判決書18頁7行目から同20頁5行目までの記載を引用する。

三  財産分与請求について

1  財産分与の対象及び資産価値

(一) 証拠(甲3の1、2、8の1、2、11の1ないし3、乙2の1、2、5、6、8の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

控訴人と被控訴人とが婚姻中に形成した主要な財産は、本件不動産のみであるところ、本件不動産は、造成住宅地の中にあり、北側が道路に面しており、南側が斜面になっているところ、平成8年度における本件土地の固定資産課税標準額は、1978万8300円であり、本件建物の家屋課税台帳上の価格は、346万2705円である。また、本件不動産の近隣の取引事例には、京浜急行線杉戸駅から徒歩13分の位置にあり、約8メートルと約4.5メートルの公道に面した東南角地である横浜市○○区○○×丁目所在115.7平方メートルの宅地(更地)が平成9年3月13日に3700万円で売却されたもの(売出価額4430万円)、JR根岸線洋光台駅徒歩18分の位置にあり、北東側が約6.5メートルの公道に面している横浜市○△区○○×丁目所在135.26平方メートルの宅地(更地)が平成8年10月10日に4500万円(売出価額4580万円)で売却されたものがあり、不動産情報誌によれば、○○線○○駅徒歩9分の位置にある横浜市○○区○○所在の150.66平方メートル(私道14.66平方メートルを含む。)及び新築建物を4004万円で売りに出されているもの(平成8年8月付け)、JR○○線○○駅徒歩18分の位置にあり、東南角地である横浜市○○区○○×丁目所在100.03平方メートルの宅地及び新築建物を6380万円で売りに出されているもの(平成9年9月付け)がある。

(二) 右に認定した取引事例及び本件土地の面積、本件建物の経過年数等に照らして考えると、平成9年11月27日現在の本件不動産の時価は3500万円を下ることはないと認めるのが相当である。

これに対し、被控訴人は、不動産仲介業者から本件不動産を4000万円台で仲介して売り出すことができる旨の陳述記載のある上申書(甲15)を提出するなどして、右時点における本件不動産の時価が4000万円を下らないと主張するが、右取引事例においても、売出価額では売却できてはいないことに照らせば、右価額で本件不動産を売却できるかどうかは極めて不確定であり、被控訴人の右主張は採用することができない。

2  本件不動産取得の経緯及び寄与の割合

(一) 前記認定の事実及び証拠(甲三及び五の各1、2、四、九、一○、乙三の1、2、四、控訴人、被控訴人(いずれも原審))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

控訴人と被控訴人は、昭和59年7月に本件不動産を3200万円で買い受け、本件土地については、同月10日売買を原因として同日受付で、控訴人及び被控訴人に持分各2分の1の所有権移転登記を経由し、本件建物については、同年8月20日受付で、控訴人及び被控訴人の持分各2分の1の所有権保存登記を経由した。

被控訴人は、右売買に当たり、昭和59年9月、婚姻前から被控訴人が所有していたマンションを代金1600万円で売却し、右代金のうち750万円を本件不動産購入代金の支払に充て、そのほか、被控訴人名義で○○組合から250万円を借り入れて本件不動産購入代金の支払に充当した。右借入金の平成9年11月分を返済した後の残元金は、84万5178円である。

また、被控訴人は、昭和59年7月20日、財団法人○○から被控訴人名義で510万円を借り受け、これを本件不動産の購入代金の支払に充当し、平成6年1月、右借入金を弁済した。

さらに、控訴人及び被控訴人は、昭和59年8月20日、連帯債務者となって、○○公庫から740万円を借り受け、これを本件不動産の購入代金の支払に充当した。右借入金の平成9年11月分を返済した後の残元金は、529万4086円である。

控訴人は、勤務先である飛川から控訴人名義で800万円を借り入れたほか、自己資金として150万円を本件不動産の購入代金に充てた。右借入金の平成9年11月分を返済した後の残元金は、416万8538円である。

なお、控訴人及び被控訴人が本件不動産購入のために借り受けた右各債務の既払分は、いずれも控訴人及び被控訴人が平等の割合で返済に貢献したものと推定される。

(二) 前記認定の控訴人と被控訴人との婚姻期間及びその間の生活状況、控訴人と被控訴人とが本件不動産を購入するに当たって出捐した各人固有の財産額、その他諸般の事情を考慮すれば、本件不動産取得についての寄与の割合は、控訴人4割、被控訴人6割と認めるのが相当である。

3  財産分与の方法

本件不動産には現在控訴人が居住しており、被控訴人は同所には居住していないこと、その他控訴人は本件不動産に継続して居住するためその所有権を単独で取得することを強く希望し、被控訴人はその所有権にはこだわらずむしろその代償として金銭の給付を求めている等の当事者双方の意見等を総合して考えると、本件不動産については、その被控訴人の持分を控訴人に分与して、これを全部控訴人に取得させることとし、これに対して控訴人から被控訴人に一定額の金銭を支払うべきものとする等して双方の利害を調整するのが一応相当であると考えられるところ、前記のとおりの本件不動産の取得に対する当事者双方の寄与の割合、残債務の状況、本件不動産の時価は前記のとおり3500万円程度と認められるが、本件不動産取得のために控訴人及び被控訴人が借り入れた前記認定の債務の残元金の合計額1030万7802円を控除した金額は2469万2198円であり、その6割である1481万5318円(1円未満切捨て。)に、被控訴人名義で○○組合から借り受けた債務の残元金84万5178円を加算した金額は1566万0496円となること、なお、前記○○公庫から借り受けた債務は控訴人と被控訴人の連帯債務となっているが、その残債務については、控訴人は財産分与の結果本件不動産を全部取得することが認められたときは、全部自己の負担において支払う意思を明らかにしていること、その他諸般の事情を考慮すると、控訴人が被控訴人に対し支払うべき額は1600万円とするのが相当である。そこで、本件財産分与の方法としては、被控訴人は控訴人に対し、本件不動産についての被控訴人の持分全部を分与してその移転登記手続をすべきものとし、控訴人は被控訴人に対し、1600万円を支払うべきものとし、右不動産の持分の移転登記手続と右1600万円の支払とは同時に履行すべきものとするのが相当である。

第五結論

よって、原判決中、右と判断を異にする財産分与に関する主文第三項は、当審判決主文第一項1、2のとおり変更することとするが、被控訴人の本件離婚請求を認容し、三女の親権者を被控訴人とし、控訴人が被控訴人に慰謝料400万円を支払うべきものとする限度で認容した部分(原判決の主文第一、第二、第四項)はいずれも相当であって、この部分にかかる本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし(被控訴人のその余の請求を棄却した部分については不服申立てがないので判断しない。)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項、64条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 長秀之)

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